労働者災害補償保険法

総則

【目的】 (法1条・2条)

(法1条)目的

 労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
 (法2条)管掌

 労働者災害補償保険は、政府が、これを管掌する。

【労災保険事業】 (法2条の2)

(法2条の2)労災保険事業

 労働者災害補償保険は、第1条の目的を達成するため、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる。

【保険給付…】
①業務災害に関する保険給付
②通勤災害に関する保険給付
③二次健康診断等給付
【社会復帰促進等事業】
①社会復帰促進事業
②被災労働者等援護事業
③安全衛生等確保事業
 
【労災保険に関する事務】
①厚生労働省労働基準局長の指揮監督を受けて⇒所轄都道府県労働局長が行う。
②保険給付(二次健康診断等給付を除く)、特別支給金の支給に係る事務
所轄労働基準監督署長
 

【強制適用事業】 (法3条1項)

(法3条1項)強制適用事業

 労働者災害補償保険法では、労働者を使用する事業を適用事業という。

●労災保険における「労働者」は、労働基準法第9条に規定する労働者をいう。
●派遣労働者⇒派遣元事業主の事業に係る保険関係により扱われる。

●個人経営の農林水産(船員を使用して行う船舶所有者の事業を除く)で、下記に掲げるもの

暫定任意適用事業

農業

常時使用労働者数

5人未満

①一定の危険又は作業を主として行う事業

②特別加入をしている事業主が行う事業以外の事業 

林業 常時労働者を使用しない 年間使用延労働者数⇒300人未満
水産業

常時使用労働者数

5人未満

①総トン数5トン未満の漁船

②災害発生のおそれの少ない河川、湖沼又は特定の水面において主として操業する者

●暫定任意適用事業⇒事業主が加入の申請をし、厚生労働大臣の認可を受ければ
⇒適用事業に

【適用除外】 (法3条2項)

【命令の制定】 (法5条)

業務災害の認定

通勤災害

【通勤災害とは】 (法7条2項)

(法7条2項)

 通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする
 ①住居と就業の場所との間の往復
 ②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
 ③第1号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

【逸脱・中断】(法7条3項)

(法7条3項) 逸脱・中断

(原則)労働者が、通勤に係る移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の移動は通勤としない。

(例外)当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、通勤の経路に復した後は、通勤とみなす。

【日常生活上必要な行為】
①日用品の購入その他これに準ずる行為
②職業訓練、学校教育法第一条 に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
③選挙権の行使その他これに準ずる行為
④病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
⑤要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)
 
●「ささいな行為」とは、通勤の経路上で雑誌を購入したり、公園で短時間休息したりする行為。逸脱・中断には含まれず、その間の行為も含めて通勤とされる。

給付基礎日額

【給付基礎日額】 (法8条)

(第8条) 給付基礎日額 

(原則)労働基準法第12条の平均賃金に相当する額とする。

(特例)平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められるとき

⇒所轄労働基準監督署長が算定

●算定事由発生日:
①負傷若しくは死亡の原因である事故が発生した日
②診断によって疾病の発生が確定した日
 
【所轄労働基準監督署長が算定する額を給付基礎日額とする場合】
 ①平均賃金の算定期間中に私傷病による療養のために休業期間がある場合
 ⇒以下の2つの額で高い方の額を給付基礎日額とする。
● 労働基準法第12条(平均賃金の定義)に定める平均賃金
●私傷病のために休業した期間・その期間中に受けた賃金額を上記の式からそれぞれ控除して算定した額
 ②じん肺患者の場合
 ⇒以下の2つの額で高い方の額を給付基礎日額とする。
● 労働基準法第12条(平均賃金の定義)に定める平均賃金額
●じん肺にかかったため粉じん作業以外の作業に常時使用されることとなった日(作業転換日)を算定事由発生日とみなして算定することとした上記式で算出される額
③ その他、平均賃金を給付基礎日額とすることが適当でない場合
 ⇒厚生労働省労働基準局が定める基準によって算定する額を算定基礎日額とする。

【自動変更対象額】 (則9条2項)

●自動変更対象額⇒給付基礎日額の最低基準額のこと。
 (原則)
 ⇒原則又は給付基礎日額の特例で算出した額が、自動変更対象額(3,950円)に満たない場合

⇒この自動変更対象額が給付基礎日額とする。

 

●厚生労働大臣は、年度の平均給与額が直近の自動変更対象額の変更年どの前年度の平均給与額と比べ変動した場合

⇒翌年度の8月1日以後の自動変更対象額を変更しなければならない。 

自動変更対象額は、毎年7月31日までに変更される場合に告示。

【給付基礎日額のスライド制】 (法8条2項)

【スライド制の趣旨】
労災保険年金額については、原則として算定事由発生日(被災日)の賃金を基に算定した給付基礎日額に給付の種類等に応じた給付日数を乗じて算定。

しかし、年金は長期にわたって給付することになるため、被災時の賃金によって補償を続けていくと、その後の賃金水準の変動が反映されないことになり、公平性を欠いてしまいます。

このため、労災保険では、給付基礎日額を賃金水準の変動に応じて改定する制度(スライド制)を取り入れている。

【スライドによる金額の改定】

一般の労働者一人あたりの平均給与額の変動率を基準として、厚生労働大臣が定める改定率(スライド率)により、翌年度の8月1日以降に支給すべき年金給付について行われる。

【スライド率の算定方法】
スライド率の算定は、算定事由発生日(被災日)の属する年度の平均給与額と、支給年度の前年度の平均給与額(平成24年8月1日からの1年間のスライド率であれば平成23年度の水準)を比較して計算される。

【休業給付基礎日額のスライド制】

適用

四半期ごとの平均給与額が、算定事由発生日の属する四半期の平均給与額の100分の110を超え又は100分の90を下回るに至ったとき

⇒スライド率を給付基礎日額に乗じて得た額を休業給付基礎日額とする。

改定

時期

平均給与額が10%を超えて変動した四覇気の翌々四半期