[第3節 安定的で持続可能な医療保険制度の実現 p309からp310]
1961(昭和36)年に国民皆保険を達成して以来、社会保険方式の下、全ての国民が職業・地域に応じて健康保険や国民健康保険といった公的医療保険制度に加入することとなっている。
そして、病気等の際には、保険証1枚で一定の自己負担により必要な医療サービスを受けることができる制度を採用することにより、誰もが安心して医療を受けることができる医療制度を実現し、世界最長の平均寿命や高い保健医療水準を達成してきた。
一方、国民皆保険達成から半世紀を超え、少子高齢化の進展、非正規雇用の増加など雇用基盤の変化、医療の高度化等、医療を取り巻く環境は大きく変化している。
今後とも必要な医療を確保しつつ、これらの社会経済情勢の変化に対応できるよう、安定的で持続可能な医療保険制度の実現に向けて取り組んでいく。
1 協会けんぽの財政基盤の強化・安定化
健康保険組合の設立が困難である中小・零細企業の労働者とその家族が加入し、加入する事業所の約8割が従業員10人未満である協会けんぽは、被用者保険のセーフティネットとして、我が国の国民皆保険制度を支える重要な基盤となっている。
しかしながら、2008(平成20)年10月の協会けんぽ発足直後の経済状況の大幅な悪
化等により、協会けんぽの被保険者の平均報酬(年間)は、2008年度385万円だったものが、2011(平成23)年度370万円へと悪化した。それにより、協会けんぽの財政状況は極めて悪化し、その保険料率も2010(平成22)年から2012(平成24)年まで3年連続で引き上げられ、8.2%から10.0%となっており、この間の上昇率は22%に昇る。
こうした状況を踏まえ、2010年度から2012年度までに講じられてきた①協会けんぽ
の保険給付費等に対する国庫補助率を13%から16.4%に引き上げる、②後期高齢者支援金の3分の1について、財政力に応じた負担(総報酬割)とする措置を、2014(平成26)年度まで2年間継続すること等を内容とする「健康保険法等の一部を改正する法律案」を2013(平成25)年通常国会に提出し、5月24日、可決・成立したところである。
これにより、「160万事業所、3500万人」の中小企業の労働者が加入する協会けんぽの保険料率は、前年度と同じ10%を2年間維持できる見込みであり、その加入者の生活の安定や医療の確保に貢献するものとなる。
2 高齢者医療制度について(70~74歳の患者負担等)
高齢化の進展に伴い増大する医療費を制度横断的に社会全体で支えるため、2008(平成20)年4月に新たな高齢者医療制度が創設された。
これは、旧老人保健制度で指摘されていた問題点を解消するため、①高齢世代と現役世代の負担割合を明確化し、②都道府県単位の財政運営とすることで、原則、同じ都道府県で同じ所得であれば同じ保険料とすることなどを狙いとしたものである。
制度施行以降、広域連合や市町村による運営面の努力とともに、75歳以上に着目した診療報酬の廃止等運用面の対応を重ねてきた結果、6年目の現在、制度は概ね定着しつつある。
75歳以上の医療費は、2008(平成20)年度約11.4兆円から2013(平成25)年度で
は約15.0兆円と見込まれており、今後も高齢者の増加等により増大が見込まれる。
高齢者が将来にわたり安心して医療を受けられるよう、その医療給付費を世代間・世代内の公平に留意しつつ支えていくため、現役世代からの支援金、高齢者自身の保険料、公費負担の在り方などについて、社会保障制度改革国民会議の議論等を踏まえ検討していく。
また、高齢者の患者負担については、加齢に伴い所得水準は低下する一方で、医療費が大幅に高くなることに配慮する必要があり、併せて現役世代との負担の公平を確保していかなければならない。
こうした考え方の下、高齢者にもできるかぎり応分の負担を求める観点から、2008年4月以降、70~74歳の患者負担を1割から2割へ見直すこととされたが、施行当時の状況を踏まえ、現在まで毎年度約2,000億円の予算措置により患者負担を1割に凍結している(現役並み所得者は3割)。
これについては、当面、1割負担を継続する措置を講じたが、本措置の在り方については、世代間の公平や高齢者に与える影響等について、低所得者対策等とあわせて引き続き検討し、早期に結論を得る。
3 医療費適正化に向けた取組み
2010(平成22)年度の国民医療費は、37.4兆円(1人当たり29.2万円)となっており、医療技術の進歩、高齢化等により、今後も医療費が伸び続けていくことが見込まれる。
このような中、国民皆保険を堅持していくため、医療費の伸びの構造的要因に着目し、必要な医療を確保した上で、効率化できる部分は効率化を図ることが重要である。このため、生活習慣病の予防や、患者の状態に応じた適切な医療サービスの実施等効率的な医療の提供を推進していく必要がある。
国と都道府県においては、医療費の伸びを適正化するため、医療費適正化計画(5年計画)を定めている。第一期医療費適正化計画においては、2008(平成20)年度から2012(平成24)年度までの5年間を計画期間として、国民の健康の保持及び医療の効率的な提供を推進するため、生活習慣病対策と平均在院日数の短縮に関する目標を掲げ、取組みを進めてきた。
2013(平成25)年度から、第二期医療費適正化計画の計画期間が開始しており、都道府県及び国において第二期医療費適正化計画を策定するとともに、第一期医療費適正化計画の実績に関する評価として、目標の達成状況や施策の実施状況に関する調査及び分析を行うこととしている。
また、2008年度より、生活習慣病予防による医療費適正化を進める観点から、メタボリックシンドロームに着目した特定健診・保健指導を実施している。特定健診・特定保健指導の実施率は、目標値とは開きがあるものの着実に上昇してきており、引き続きこの向上に努めていく。