はじめに
我が国経済は、2012 年年末以降、内需が主導する形で景気は持ち直しに転じた。
2014 年春以降は4月に行われた消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動やその後の天候不順の影響もあり、個人消費などに弱さがみられたが、海外経済の緩やかな回復等を背景とした輸出の持ち直し、雇用・所得環境の改善傾向等が続き、緩やかな回復基調が続いている。
そのような経済情勢の中で、雇用情勢については、完全失業率は 2014 年度平均で 3.5%と17 年ぶりの水準となり有効求人倍率も 2014 年度平均で 1.11 倍と 23 年ぶりの水準となった。
このように労働力需給が引き締まる方向で推移する中で、不本意非正規雇用労働者数は対前年比で減少し、非正規雇用から正規雇用への転換もみられた。
さらに賃金についても 2015 年春季労使交渉における民間主要企業の妥結状況は、妥結額 7,367 円、賃上げ率 2.38%となり、前年を大きく上回り 1998 年以来の高い伸び率となった。
「平成 27 年版 労働経済の分析」では、こうした 2014 年度を中心とした労働経済の状況を分析するとともに、我が国の経済活力の維持・向上に向け、少子高齢化の中で労働力の減少という供給制約の克服、さらには持続的な賃金の上昇を可能にするためには労働生産性の向上が不可欠であるという認識のもと、「労働生産性と雇用・労働問題への対応」として分析を行った。
第1章「労働経済の推移と特徴」では、緩やかな回復基調の中で、2013 年から続く雇用・賃金面での改善について、特に雇用面における量的な改善のみならず、不本意非正規雇用労働者の動向、非正規雇用から正規雇用への転換などの動きについて分析を行った。
第2章「経済再生に向けた我が国の課題」では、経済の好循環の継続に向けて、短期的には足下の需要を高めていくこと、そのためには賃金の上昇が必要であることから、これまで労働生産性が一定の伸びを示す中で賃金が上昇してこなかった要因を探ることにより、労働生産性の上昇を賃金に結びつける方策について検討を行った。また、需要の大宗を占める消費拡大に向けて、年代別などの消費構造を明らかにするとともに、消費・経済全体に対してより効果的な所得・雇用の増加はどのようなものか分析を行った。
そして、中長期的な経済成長を実現するためには労働生産性を上昇させていくことが必要であることから、諸外国との比較などを通じて必要な取組について分析を行った。
第3章「より効率的な働き方の実現に向けて」では、少子高齢化が進行する中で、希望される方が就労できるよう、従来の長時間労働を前提とする働き方の改善に向けた検討を行った。
統計データにより労働時間の現状や長時間労働者の特徴を長期的に、そして産業、職業別に概観した上で、企業や労働者に対するアンケート調査をもとに長時間労働が発生する要因について労使双方の視点で整理を行い、そこからどのような取組が長時間労働削減に効果があるのか分析を行った。さらに、長時間労働削減の効果として、労働生産性の向上との関係についても分析を行い、長時間労働の削減は労使双方にとって意義のあるものであることを明らかにした。
第4章「人口減少下における地域経済の在り方」では、経済の好循環を地域にも波及してくための重要な要素として人材に着目をした。大都市圏と地方圏、地域ブロック内、都道府県内といった各レベルの人口移動の分析を行うとともに、人口の地域間移動は大学への進学、就職といった機会に生じることなどを明らかにした。日本経済の成長のためには地方圏の成長が、そして地方圏の成長のためには人材の質的、量的な活用が重要となる。
質的な観点からは、賃金上昇のために労働生産性の向上が必要となり、労働生産性の向上のためには、人材の集中、特に大学等を卒業した人材や専門的技能を有する人材の集積を行っていくことが必要であることを明らかにした。そして量的には、地域での労働参加を一層促すこと、特に地域間での活用の差がある 60 歳未満の女性の活用に向けて取り組んで行くことが必要であることを整理した。
本年の白書を通じて、マクロ、企業、地域といった各レベルにおいて労働生産性の向上、そしてそのためには人材の育成が重要であることが明らかになった。職業能力の向上のため国、企業、労働者のそれぞれの取組が重要である。