はじめに
人口減少社会を考える
~希望の実現と安心して
暮らせる社会を目指して~
我が国の人口は、戦後、一貫して増加を続けてきたが、2008年の1億2,808万人をピークとして、ついに人口減少局面に入っている。
国立社会保障・人口問題研究所の推計(出生中位・死亡中位推計)によると、このままのペースでは、2050年には人口が1億人を割り込み、2100年には約5,000万人(参考推計)まで減少するとも推計されている。
これからの日本の人口減少局面において、特に留意しなければならないのは、急速な高齢化を伴うということである。
日本の人口が1億人を超えた1967年には、65歳以上の人口が総人口に占める「高齢化率」は6.6%であった。それが今、25%を超え、国民の4人に1人が高齢者という水準にある。
このままいけば、2060年には高齢化率は約40%という、世界に例を見ない超高水準に至るものと推計されており、その間、高齢化は急速に進行することとなる。
日本は、世界のどの国も経験したことのないほどの人口急減・超高齢化に直面しているのである。
このような急激な人口減少・高齢化は、我が国の経済、地域社会、財政、社会保障などあらゆる面で問題を引き起こす。
特に、世代間の支え合いの要素が不可欠な社会保障制度は、少子高齢化によって既に、年金、医療、介護をはじめ各制度で、給付の増大や現役世代の負担の増加など多くの課題を抱えている。
これまでも、不断の改革が行われてきているが、大幅な人口減少がさらに進んでいけば、これらの制度の持続可能な運営を確保することが難しくなる事態にも直面しかねない。
また、地方では、地域活動の担い手が減少するほか、医療や介護を担う人材の確保も困難となって必要なサービスの提供ができなくなり、住民の生活維持に大きな支障を来すことになる。
そしてこのことが、ますます過疎化や人口の縮小を招いて、自治体の運営や存
続自体が危ぶまれる事態も生じかねない状況にある。
さらに、大幅な人口の転入超過が続いている東京圏でも、高齢者の急増や介護サービスの不足などの多くの課題があり、また、厳しい子育て環境により出生率の低い東京圏に人口が集中することは、ますます日本全体の人口減少につながっていくことになる。
そもそも日本では、一人の女性が生涯に生む平均子ども数を示す「合計特殊出生率」(いわゆる出生率)が、1974年に「人口置換水準」(人口が長期的に維持される水準。現在は2.07)を下回り、今日まで40年間、少子化の流れが進行する状況が続いてきた。
ただ、人口全体に関して言えば、戦後のベビーブーム世代やその子どもの世代の人口の多さにより、出生率が下がっても出生数が大きく下がらなかったことや、平均寿命の延びによって死亡数の伸びが抑制されてきたことにより、日本の総人口は長らく増加を続けてきた。
このような事情もあり、人口減少社会の到来やその影響は以前より指摘されてきたものの、これまで国民の間に危機感を持って実感されにくかったことは否めない。
しかし、人口減少が現実となって進行し始めた今こそ、国民がそのことの危機感を、改めて広く共有して再認識し、日本をあげてこの問題に立ち向かっていくべき時ではないだろうか。
こうした人口減少の問題については、昨年、民間有識者による「日本創成会議」が、将来的に人口減少によって消滅の可能性が高いとされる自治体を挙げて問題提起し、地方と人口の問題に警鐘を鳴らしたこともあり、今あらためて、一層の関心と危機感が高まっている。政府では「まち・ひと・しごと創生本部」を設置して、人口減少の克服と地方創生に向けた施策を推し進め、地方自治体でもそれぞれ本格的に検討が始まっている。
P19 「まち・ひと・しごと創生本部」の設置
(1)「まち・ひと・しごと創生本部」の設置 (人口減少への対応として、政府は「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」を閣議決定)
これまで見たとおり、我が国は「人口減少時代」に突入し、このまま人口減少が続けば、将来的に経済規模の縮小や生活水準の低下、社会保障の負担増や制度維持など、社会経済の全般にわたり深刻な影響をもたらすことが強く懸念される状況にある。
ここで、人口減少の大きな要因である少子化の流れをみると、我が国の合計特殊出生率は、1974(昭和49)年以降、人口置換水準を下回る状態が続いてきた。
2005 (平成17)年に過去最低の1.26を記録したあと、2014(平成26)年には1.42と、近年はやや回復傾向がみられるが、依然として合計特殊出生率は人口置換水準を下回る状態が続いている。
このような中、政府は、我が国が直面する地方創生・人口減少克服という構造的課題に
正面から取り組むため、2014年9月、内閣総理大臣を本部長とする「まち・ひと・しご
と創生本部」を設置して議論を重ね、12月に「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」
を策定した。
この長期ビジョンは、日本の人口の現状と将来の姿を示し、今後目指すべき将来の方向
を提示したものであり、その中で、若い世代の希望を実現すること等により出生率が向
上、回復するならば、人口減少に歯止めがかかり、50年後の2060年に1億人程度の人口
が確保されることが見込まれるとしている。
(用語)
「合計特殊出生率」とは、その年次の15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したものであり、一人の女性が、仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に生むと仮定したときの平均子ども数に相当する。
「人口置換水準」とは、(国際)人口移動がなく、かつ年齢別死亡率が変化しないとした場合に、長期的に人口が維持される合計特殊出生率の水準。年によって変動があり、1974年は2.1、現在は2.07である。
P22 合計特殊出生率と国民希望出生率
「合計特殊出生率」と「国民希望出生率」について
○「合計特殊出生率」は、その時点での年齢別出生率を合計した出生率合計特殊出生率とは、15歳から49歳までの女子の年齢別出生率を合計したもので、1人の女子が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に産むとしたときの子どもの数に相当する。
厳密には、ある期間(1年間)の出生状況に着目した「期間合計特殊出生率」とある世代の出生状況に着目した「コーホート合計特殊出生率」とに分けられるが、本白書では、一般的に用いられる期間合計特殊出生率を「合計特殊出生率」としている。
この合計特殊出生率が、人口置換水準である2.07を継続的に下回る場合、長期的に人
口は減少することとなる。
2014(平成26)年の合計特殊出生率は、1.42であった。
○「国民希望出生率」は、若い世代の結婚・出産の希望が叶うとした場合の想定の出生率
「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」
(平成26年12月27日閣議決定。以下「長期ビジョン」という。)では、意識調査をもとにした若い世代の結婚・出産の希望が叶うとした場合に想定される合計特殊出生率を「国民希望出生率」と称して紹介している。
国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」(第14回、平成22年)によると、18~34歳の独身者では、男女ともに約9割は「いずれ結婚するつもり」であり、結婚した場合の希望子ども数は男2.04、女性2.12人となっており、また夫婦の予定子ども数は2.07人となっている。
この希望が叶うとした場合、一定の仮定に基づいて計算すると、現在の「国民希望出生
率」が概ね1.8程度となる。
P55 次世代育成支援対策推進法
次世代育成支援対策推進法
(2003年「次世代育成支援対策推進法」制定。国・自治体・企業が取組みの主体に)
2003(平成15)年7月には、家庭や地域の子育て力の低下に対応して、次世代を担う
子どもを育成する家庭を社会全体で支援する観点から、地方公共団体及び企業における
10年間の集中的・計画的な取組を促進するため、「次世代育成支援対策推進法」(平成15年法律第120号)が制定された。
同法は、地方公共団体及び事業主が、次世代育成支援のための取組みを促進するために、それぞれ行動計画を策定し、実施していくことをねらいとしたものである。
なお、同法は、2015(平成27)年3月31日までの時限立法であったが、「次代の社会
を担う子どもの健全な育成を図るための次世代育成支援対策推進法等の一部を改正する法律」(平成26年法律第28号)により、その期限を10年間延長して2025(平成37)年3
月31日までとされ、また、その改正により、認定を受けた事業主のうち特に次世代育成
支援対策の実施の状況が優良なものについて、厚生労働大臣による新たな認定(特例認
定)制度の創設等がなされた。
(基本理念)
次世代育成支援対策は、保護者が子育てについての第一義的な責任を有するという基本的認識の下に、家庭その他の場において、子育ての意義についての理解が深められ、かつ、子育てに伴う喜びが実感されるように配慮して行わなければならないこととする。
(行動計画の策定等)
①国の行動計画策定指針
主務大臣は地方公共団体及び事業主が行動計画を策定するに当たって拠るべき指針を策定
②地方公共団体の行動計画
市町村及び都道府県は、地域における子育て支援、親子の健康の確保、教育環境の整備、子育て家庭に適した居住環境の確保、仕事と家庭の両立等について、目標及び目標達成のために講ずる措置の内容等を記載した行動計画を策定
③事業主の行動計画
・事業主については、国の行動計画策定指針に即し、労働者の仕事と家庭の両立を図るために必要な雇用環境の整備等に関し、目標及び目標達成のための対策等を定めた一般事業主行動計画を策定(101人以上の労働者を雇用する事業主は義務づけ、100人以下は努力義務)
・事業主からの申請に基づき、行動計画に定めた目標を達成したこと等の基準に適合する事業主を認定
P60 育児休暇制度の経過
(7)育児休業制度の経過
我が国の育児休業制度は、1992(平成4)年に育児休業法の施行により育児休業制度
が創設されたところから始まる。
その後、育児休業給付の創設がされ、1999(平成11)年には、介護に関する休業ともあわせた育児・介護休業法となり、そのほか幾度もの改正が繰り返され、制度の改善が進められている。
最近では2014(平成26)年に、育児休業給付の給付率の引上げ(育児休業を開始して
から180日目までは、休業開始前の賃金の67%)が行われ、両立支援の一翼を担っている。
P184 女性の年齢別の就業率
(2)女性の年齢別の就業率
(日本の女性就業率は、諸外国と異なり30代~40代前半が低い)
次に、女性の年齢別の就業率をみると、我が国は、30代から40代前半の女性の就業率
が低下する「M字カーブ」が見られる(図表1-4-5)。これは、子育て期に仕事から離れ、
子育てが一段落したところで再び仕事に復帰している場合が多いためとみられている。
一方、諸外国では、30代から40代の女性の就業率の低下はほぼみられず、日本のような明確な「M字カーブ」とはなっていない。
P196 人口減少と関連する取組
前節までにおいて紹介した、我が国のこれまでの人口推移や人口に関わる政策、人口減
少の背景の分析について、要点は次のようにまとめられる。
①第2次ベビーブーム直後の1974(昭和49)年から、合計特殊出生率が人口置換水準
を下回るようになった。
②1990(平成2)年の「1.57ショック」により、出生率の低下について社会的に問題
認識が高まることとなり、国として少子化対策を重要な政策課題として位置づけるよ
うになった。(その後、1994(平成6)年の「エンゼルプラン」の策定をはじめ各種
の少子化対策が政府全体で実施されてきた)
③合計特殊出生率は、2005(平成17)年に過去最低の1.26を記録。その後は上昇し
ているものの、人口置換水準を下回る状況が続いている。(2015(平成27)年の「少
子化社会対策大綱」の閣議決定など、政府をあげた取組みが継続している)
④結婚を望む若者は依然として多く、また、結婚した夫婦の希望子ども数と現実の出生
数が乖離している。(若い世代の経済的安定、出会いの機会の創出、子育ての様々な
負担の軽減、仕事と家庭の両立支援の推進等が重要な課題である)
⑤子育てにとって地域の支えも重要である。また地域のつながりを維持し、安心した生
活を維持するためには、都市機能の集約等が必要となる。
p251 地域包括ケアシステム
自身や家族が介護を必要とする時に受けたい介護の希望を調査したアンケートによれ
ば、自宅での介護を希望する人は70%を超えている。
しかし、こうした希望を実現するためには、地域において、介護・福祉サービス等が適切に確保される必要がある。また、高齢者の状態に応じて、バリアフリー等の環境が確保された住宅の整備や、自宅での介護が困難となった場合の施設の確保といった観点も含め、地域において高齢者の生活を支えていく体制を整備する必要がある。
「地域包括ケアシステム」とは、介護が必要な状態になっても、高齢者が可能な限り、
住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した生活を続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制である。
厚生労働省では、団塊の世代が75歳以上となる2025(平成37)年に向けて地域包括ケアシステムの構築を推進している。高齢化の状況や地域資源の状況などは地域によって異なるため、それぞれの地域の実情に応じた取組みを進めることが重要となっている。
P286 仕事と育児の両立支援策の推進
仕事と育児の両立支援策の推進
育児・介護期は特に仕事と家庭の両立が困難であることから、労働者の継続就業を図る
ため、仕事と家庭の両立支援策を重点的に推進する必要がある。
直近の調査では、女性の育児休業取得率が86.6%(2014(平成26)年度)になり、
育児休業制度の着実な定着が図られつつある。
しかし、第1子出産後も継続就業をしている女性は約4割にとどまっており、仕事と育児の両立が難しいため、やむを得ず仕事を辞めた女性も少なくない。
また、男性の約3割が育児休業を取得したいと考えているが、実際の取得率は2.30%
(2014年度)にとどまっている。
さらに、男性の子育てや家事に費やす時間も先進国中最低の水準である。
こうした男女とも仕事と生活の調和のとれない状況が女性の継続就業を困難にし、少子化の原因の一つになっていると考えられる。
P286 企業における次世代育成支援の取組み
企業における次世代育成支援の取組み
次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ育つ環境をつくるために、次世代育成支援対
策推進法(以下「次世代法」という。)に基づき、国、地方公共団体、事業主、国民がそれぞれの立場で次世代育成支援を進めている。
地域や企業の更なる取組みを促進するため、2008(平成20)年12月に次世代法が改正され、2011(平成23)年4月1日から一般事業主行動計画(以下「行動計画」という。)の策定・届出等が義務となる企業は常時雇用する従業員数301人以上企業から101人以上企業へ拡大された。これを受けて次世代育成支援対策推進センター(行動計画の策定・実施を支援するため指定された事業主団体等)、労使団体及び地方公共団体等と連携し、行動計画の策定・届出等の促進を図っている。
また、適切な行動計画を策定・実施し、その目標を達成するなど一定の要件を満たした
企業は「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受け、認定マーク(愛称:くるみん)を使用することができる。
次世代法については2014(平成26)年度末までの時限立法であったが、同法の有効期
限の10年間の延長、新たな認定(特例認定)制度の創設等を内容とする「次代の社会を
担う子どもの健全な育成を図るための次世代育成支援対策推進法等の一部を改正する法律案」が第186回通常国会に提出され、2014年4月16日に成立した。
これにより、2015(平成27)年4月1日からくるみん認定を受けた企業のうち、より
高い水準の両立支援の取組みを行い、一定の要件を満たした場合に認定を受けられる特例認定(プラチナくるみん認定)制度が施行された。特例認定を受けた企業は認定マーク(愛称:プラチナくるみん)を使用することができる。
P291 若年者雇用の現状
若年者雇用の現状
若者の雇用情勢については、24歳以下の完全失業率が、2014(平成26)年には6.3%(前年差0.6ポイント低下)、25~34歳については、4.6%(前年差0.7ポイント低下)と、前年より回復している。
また、2015(平成27)年3月卒業者の就職内定率を見ると、大学については96.7%
(2015年4月1日現在)、高校については98.8%(2015年3月末現在)と、いずれも前年
同期に比べ上昇(大学2.3ポイント、高校0.6ポイント)したものの、引き続き新卒者に
対する就職支援に全力を尽くす必要がある。
このため、学校等と密に連携しながら、新卒者等の求人確保や採用意欲のある企業と学
生とのマッチングなどにより、新卒者等の就職支援を更に強化する必要がある。併せて、既卒者についても、企業に対して新卒枠で既卒者も応募受付を行うよう採用拡大を働きかけるなどにより、早期就職に向けて取り組む必要がある。
また、フリーター数は、2014年には179万人となり、前年(2013(平成25)年182万人)と比べて3万人減少となっており、また、ニート数については2014年には56万人となり、前年(2013年60万人)と比べて4万人減少している。
我が国の将来を担う若者が安心・納得して働き、その意欲や能力を充分に発揮できるよ
う、フリーターを含む若者の正規雇用化の推進など、包括的な支援を行っている。
P297 女性の雇用の現状
女性の雇用の現状
総務省統計局「労働力調査」によると、2014(平成26)年の女性の労働力人口は
2,824万人(前年差20万人増)で、女性の労働力率は49.2%(前年差0.3ポイント上昇)
である。生産年齢(15~64歳)の女性の労働力率は、66.0%(前年差1.0ポイント上昇)である。また、女性の雇用者数は2,436万人(前年差30万人増)で、雇用者総数に占める女性の割合は43.5%(前年差0.2ポイント上昇)となっている。
P301 高齢者雇用の現状
高年齢者雇用の現状
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、希望者全員が65歳まで働ける制度の
導入が企業に義務づけられている。
最近の制度の導入状況は、2014(平成26)年6月1日現在、31人以上規模企業の
98.1%では、
①65歳までの定年の引上げ、
②継続雇用制度の導入、又は
③定年の定めの
廃止のうちいずれかの措置(以下、「高年齢者雇用確保措置」という。)を実施済みである。
引き続き、高年齢者雇用確保措置が未実施である企業の早期解消を図るとともに、人
口の減少と高齢化の進展により労働力人口が大幅に減少することが懸念される中、高年齢者が健康で意欲と能力がある限り年齢に関わりなく、生涯現役で働き続けることができる社会の実現に向けた取組みを推進していくこととしている。
p302 障害者雇用の現状
障害者雇用の現状
最近の障害者雇用の状況は、民間企業での障害者の雇用者数(2014(平成26)年6月
1日現在43万1千人(前年比5.4%増))が11年連続で過去最高を更新し、実雇用率も
1.82%(前年は1.76%)と過去最高を更新するなど、一層の進展がみられる。
また、ハローワークを通じた障害者の就職件数は、2014年度は過去最高の84,602件(前年度比8.6%増)であった。特に、精神障害者の就職件数が34,538件と前年度から大幅に増加し、身体障害者の就職件数を大きく上回った。
このような障害者雇用の進展の背景には、企業における障害者雇用への理解が進んでい
ること、就職を希望する障害者が増加していることなどが要因として考えられるほか、ハローワークと福祉、教育、医療などの地域の関係機関との連携による就職支援の推進や障害特性に応じた支援施策の充実などが、障害者雇用の進展を後押ししている。
一方で、民間企業の実雇用率は依然として法定雇用率を下回っており、障害者雇用を率
先垂範すべき立場の公的機関についても、都道府県教育委員会を中心に、未達成機関が存在することから、一層の指導が必要である。
さらに、精神障害、発達障害、難病に起因する障害など多様な障害特性を有する者に対しても、その障害特性に応じた支援策の充実を図り、更なる雇用促進を図る必要がある。
また、2013(平成25)年6月に、障害者権利条約等に対応するため障害者の雇用の促
進等に関する法律が改正された。
この改正においては、
①雇用分野における障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務、
②障害者に対する差別等に係る苦情処理・紛争
解決援助、
③精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えること等を規定している。
①、②
については2016(平成28)年4月施行、③については2018(平成30)年4月施行と
なっている。
P324 非正規雇用の現状と対策
非正規雇用の現状と対策
近年、有期契約労働者やパートタイム労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者は
全体として増加傾向にあり、2014(平成26)年には約1,962万人と、役員を除く雇用者
全体の約3分の1超を占める状況にある。
しかし、これらは、高齢者が増える中、高齢層での継続雇用により非正規雇用が増加していることや、景気回復に伴い女性を中心にパートなどで働き始める労働者が増加していることなどの要因が大きい。
高齢者や学生アルバイトなど、非正規雇用の全てが問題というわけではないが、正規雇
用を希望しながらそれがかなわず、非正規雇用で働く者(不本意非正規)も18.1%(2014年)存在し、特に25~34歳の若年層で28.4%(2014年)と高くなっている。
非正規雇用の労働者は、雇用が不安定、賃金が低い、能力開発機会が乏しいなどの課題がある。このため、正規雇用を希望する非正規雇用労働者の正規雇用化を進めるとともに、雇用の安定や処遇の改善に取り組んでいくことが重要である。
P325 有期労働契約に関するルール
労働契約の期間の定めは、パートタイム労働、派遣労働などを含め、いわゆる正社員以
外の多くの労働形態に関わる労働契約の要素であり、有期労働契約で働く人は1,485万人(総務省「労働力調査」(基本集計)(2014(平成26)年平均)となっている。
労働市場における非正規雇用の労働者の割合が増大している中で、有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めの不安の解消や、有期労働契約であることを理由として不合理な労働条件が定められることのないようにしていくことが課題となっている。
2013(平成25)年4月1日に全面施行された改正労働契約法では、こうした有期労働
契約に関する問題に対処し、働く人が安心して働き続けることができる社会を実現するため、
(1)有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みに
より、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる制度を導入すること、
(2)最高裁判例として確立した「雇止め法理」を法定化すること、
(3)有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けてはならないとしている。
この改正労働契約法を円滑かつ着実に施行するため、制度に係る周知を引き続き徹底す
る。特に、2015(平成27)年度は、中小企業や労働者を対象とするセミナーの拡充や、
無期労働契約への転換制度に関する社内制度化についての個別企業への支援等を行う予定である。
P327 パートタイム労働者の均等・均衡待遇の確保と正社員転換の推進
近年、パートタイム労働者が増加し、2014(平成26)年には1,651万人と雇用者総数
の30.4%にも達し、従来のような補助的な業務ではなく、役職に就くなど職場で基幹的
役割を果たす者も増加している。
一方で、パートタイム労働者の待遇がその働き・貢献に見合ったものになっていない場合もある。
このため、パートタイム労働者について正社員との不合理な待遇の格差を解消し、働き・貢献に見合った公正な待遇を確保することが課題となっている。
こうしたことから、パートタイム労働者がその能力を一層有効に発揮することができる
雇用環境を整備するため、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号)に基づく是正指導や専門家による相談・援助のほか、事業主に対する職務分析・職務評価の導入支援及び助成金の活用などにより、正社員との均等・均衡待遇の確保や正社員への転換の実現のための取組みを推進している。
また、事業主がパートタイム労働者の雇用管理の現状と課題を自主的に分析する「パー
トタイム労働者均等・均衡待遇指標(パート指標)」やパートタイム労働者の活躍に向けて取り組む企業として発信する「パート労働者活躍推進企業宣言」の活用、均等・均衡待遇の実現等に特に積極的に取り組む企業を対象とした「パートタイム労働者活躍企業表彰」の実施や、これらの情報を総合的に提供する「パート労働ポータルサイト」の活用等により、パートタイム労働者の雇用管理改善に向けた事業主の自主的かつ積極的な取組みを促進している。
P329 労働時間法制の見直し
年間総実労働時間は、減少傾向にあり、近年では1,800時間前後の水準となっている
が、いわゆる正社員等については2,000時間前後で推移している。
また、週の労働時間が60時間以上の労働者割合も、特に30歳代男性で17.0%に上っており、これらの長時間労働の問題への対応が求められている。
さらに、経済のグローバル化やサービス経済化の中で、多様なニーズに対応した新たな働き方の選択肢を設けることが求められている。
このような状況の中で、労働時間法制の見直しについて、2013(平成25)年9月より
労働政策審議会において総合的な検討を行い、以降22回に渡る議論を経て、2015(平成
27)年2月に厚生労働大臣に対し、今後の労働時間法制等の在り方について建議がなさ
れた。
これらを踏まえ、2015年4月3日に、
①中小企業における月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金率の適用猶予の廃止、
②著しい長時間労働に対する監督指導の強化、
③一定日数の年次有給休暇の確実な取得、
④フレックスタイム制の清算期間の1
か月から3か月への延長、
⑤企画業務型裁量労働制の対象業務の追加、⑥高度プロフェッショナル制度の創設等を内容とする「労働基準法等の一部を改正する法律案」を第189回通常国会に提出した。
P333 テレワークの推進
適正な労働条件下でのテレワークの普及促進を図るため、「在宅勤務ガイドライン
(情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン)」について、事業主への周知を行っている。また、テレワークの導入・実施時の労務管理上の課題等についてテレワーク相談センターで相談に応ずるほか、事業主・労働者等を対象としたテレワーク・セミナーの開催等を行っている。さらに、中小企業でも取り組みやすいテレワークモデルを構築するための実証事業を実施している。
2015(平成27)年度は、これらの施策に加え、新規にテレワークに取り組む中小企業
事業主に対する助成の拡充、業界団体等と連携して実施する傘下企業に対する導入支援等の施策を行う予定である。
在宅ワークについては、在宅就業者が適正な契約条件で、安心して在宅就業に従事す
ることができるよう、発注者と在宅就業者が契約を締結する際のルールを定めた「在宅
ワークの適正な実施のためのガイドライン」の周知のほか、在宅ワークに関する総合支援サイト「ホームワーカーズウェブ」による情報提供や在宅就業者、発注者等を対象としたセミナーの開催、相談対応等を実施している。