[公的年金 p92]
世代間の支え合いによる所得再分配
我が国の公的年金制度は、現役世代が支払った保険料はその時点の高齢者などの年金給付に充て、現役世代が高齢者となった将来の時点では、その将来の時点における現役世代が支払う保険料を年金給付に充てるという「賦課方式」による財政運営が行われている。
また、保険料や税、積立金などの限られた財源を長期にわたり適切に配分する仕組みとなっており、世代間の支え合いや分かち合いを基本的な考え方として、現役世代から高齢世代への所得再分配が行われている。
(地域経済における安定した消費活動の下支え、引退期の貧困防止)
公的年金の実受給権者数は2015(平成27)年度末で4,025万人(総人口の約32%)、2015年度の給付総額は約54兆6千億円(GDPの約10%)であり、年金は高齢者世帯の収入の約7割を占めるとともに、5割を超える高齢者世帯が公的年金による収入だけで生活している。
このように、公的年金は、高齢化が進行する中で、高齢期の所得確保において中心的な役割を果たし、安定した消費活動を下支えしている。
特に、人口の高齢化が進む地域においては、県民所得の15%以上が年金給付であって、家計の最終消費支出に対する年金給付の規模の割合が2割を超える地域もあり、地域経済を下支えする役割を果たしている。
現役世代にとっては、保険料を納めることにより老親の私的扶養に伴う経済的負担の軽減を図るとともに、自身の老後の心配を取り除くという役割を果たしており、一方で、高齢世代にとっても、公的年金によって、自分の子どもに過度な負担をかけず、経済的に自立した生活を送ることに寄与しており、公的年金は、個人個人の自立を高め、経済社会の発展、安定に貢献している側面がある。
また、厚生年金保険制度においては、保険料は、原則として被保険者の給与の額に比例して増える一方で、年金給付は、保険料の額に比例して増える給付(厚生年金)と、全員に共通の定額の給付(基礎年金)があり、保険料に対する年金給付の比率は、給与の低い人ほど高くなる。
こうした仕組みにより、世代内において所得の再分配が行われている。
実際に、所得格差の度合いを示す「ジニ係数」について見てみると、等価当初所得のジニ係数は高齢者世帯の増加などにより増加しているが、社会保障や税による再分配後の等価再分配所得のジニ係数は近年減少傾向にあり、就業構造や家族形態が変化し、高齢期の貧困リスクが高まる中で、公的年金制度が格差の拡大を防ぎ、貧困を防止する役割を果たしていることがわかる。