公的医療保険制度の体系 p97~100
我が国の公的医療保険制度は、職域を基にした各種被用者保険と、居住地(市町村)を基にした国民健康保険、75歳以上の高齢者などが加入する後期高齢者医療制度に大きく分けられる。
被用者保険は、大企業の正規労働者が加入する組合管掌健康保険(組合健保)、中小企業の正規労働者が加入する全国健康保険協会管掌保険(協会けんぽ)、公務員が加入する共済組合に分けられる。
被保険者が扶養する家族も、被扶養者として、被保険者が加入する保険でカバーされる。
国民健康保険は、自営業者、年金生活者、非正規雇用者やその家族など、被用者保険に加入していない国民を対象とする保険制度であり、市町村が運営主体である。
国民健康保険は、家族一人ひとりが加入するものであり、加入者全てが被保険者である。 後期高齢者医療制度は、75歳以上の高齢者などが加入する保険であり、都道府県単位で全ての市町村が加入する後期高齢者医療広域連合が運営主体となっている。
こうした制度の分立は、歴史的な経緯によるところが大きいが、結果として、我が国の医療保険制度における加入者の特性には、年齢や医療費、平均所得などの点で大きな違いがある。
特に、国民健康保険は、被用者保険と比べて低所得者の加入者が多い、年齢構成が高く医療費水準が高い、所得に占める保険料負担が重いといった課題を抱えており、財政基盤の安定化が求められている。
このため、「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第31号)により、2018(平成30)年度から、国民健康保険の財政運営の責任主体が市町村から都道府県に替わり、安定的な財政運営や効率的な事業の確保など、国保運営に中心的な役割を担い、制度の安定化を目指すこととなった。
保険料
保険料の額は、各保険制度によって算出方法が異なる。被用者保険では、保険料は給与やボーナスに一定の保険料率を掛けて算出され、原則、労使折半で負担する。
扶養する家族が何人いても、保険料は同じである。保険料率算定の基礎となる給与の額は、50段階 の「標準報酬月額」にあてはめられ、標準報酬月額には、上限額(ひと月当たり139万 円)が設けられている。
保険料率は、健康保険組合はそれぞれの組合で異なり、2015 (平成27)年度における健康保険組合の平均保険料率は9.0%である。
協会けんぽは、都道府県ごとに異なるが、2016(平成28)年度における平均保険料率は、10.0%である。
国民健康保険の保険料(税)は、医療給付費の約5割を国民健康保険料(税)で、残り の約5割を公費で負担するというルールに基づいて算定しており、被保険者の負担能力に応じて課される応能分(所得割、資産割)と、受益に応じて等しく賦課される応益分(均等割、平等割)から構成されている。
後期高齢者医療制度の保険料は、75歳以上の高齢者などの医療給付費(自己負担を除 く)のうち、約5割を公費、約4割を現役世代からの支援金、約1割を75歳以上の高齢者などの保険料でまかなうというルールに基づいて算定しており、被保険者の負担能力に応じて課される所得割と、受益に応じて等しく賦課される均等割から構成される。
保険料賦課限度額は1被保険者年額57万円である。
保険料額は各後期高齢者医療広域連合によって異なるが、2016・2017年度の被保険者1人当たり平均保険料額は、全国平均で月額5,659円となる見込みである。
我が国の医療保険制度においては、保険リスクの偏在による保険者間の負担の不均衡を調整するとともに、応能負担の観点から無職者や低所得者を対象に保険料を軽減・免除しており、制度運営の財源構成においては、公費が重要な役割を担っている。