労働基準法の「使用者」の定義と労働安全衛生法の「事業者」の違いについて
その前に、労働基準法と労働安全衛生法の成り立ちを見ていきます。
昭和22年に制定された労基法には、第5章として安全衛生に関する諸規定を設けていました。
内容は、危害の防止、有害物の製造禁止、危険業務の就業制限、安全衛生教育、健康診断などに関する規定です。
そんな中で年月が経ち技術の進歩や産業の発展に伴い、新たな労働災害の危険が増大し、それに対応するために、独立した安全衛生法規を制定することが議論され、昭和47年6月に成立し、同年10月から施行されたのが労働安全衛生法ということになります。
つまり、最低基準を定めた労働基準法の対応だけでは不十分であり、予防も含めて独立、分離して施行されたのが労働安全衛生法ということになります。
労働安全衛生法1条の目的条文にも記載されているように、労働基準法と密接な関係を持っています。
この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。 |
それでは、過去問です。
(労働基準法の「使用者」の定義と労働安全衛生法の「事業者」の定義)
平成26年の問1と同年労働安全衛生法の問8で出題されています。
(平成26年 問1E)
労働基準法にいう「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいうと定義されている。 |
(誤り)
使用者の定義に関する問題ですが、単に賃金を支払う者としているので明らかに誤りです。
労働基準法の使用者の定義は、法10条で規定されています。
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。 |
通達基発17号 通達
使用者とは、労働基準法が各条の義務についての履行責任者をいい、その認定は、部長、課長等の形式にとらわれることなく、実質的に一定の権限を与えられているか否かによる。単に上司の命令の伝達者にすぎない場合は使用者と認められない。 |
次に、同年平成26年の問8(安全衛生法)の問題です。
(平成26年 問8A)
労働安全衛生法では、「事業者」は、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。」と定義されている。 |
(誤り)設問の定義は、労働基準法の「使用者」の定義そのもので誤りです。
労働安全衛生法2条3号の事業者の定義です。
事業者は、事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。 |
労働安全衛生法 (昭和47年9月18日 都道府県労働基準局長あて労働事務次官通達)
この法律における主たる義務者である「事業者」とは、法人企業であれば当該法人(法人の代表者ではない。)、個人企業であれば事業経営主を指している。
これは、従来の労働基準法上の義務主体であった「使用者」と異なり、事業経営の利益の帰属主体そのものを義務主体としてとらえ、その安全衛生上の責任を明確にしたものである。
なお、法違反があった場合の罰則の適用は、法第122条に基づいて、当該違反の実行行為者たる自然人に対しなされるほか、事業者たる法人または人に対しても各本条の罰金刑が課せられることとなることは、従来と異なるところはない。 |
平成26年の過去問は、基本問題であり、取りこぼし出来ない問題ですが、過去には、上記に記載した通達からも出題されているので再度の確認が必要です。
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