はじめに
我が国の経済は、企業収益や雇用・所得環境が改善し、個人消費が持ち直しの動きを示すなど、経済の好循環が広がる中、緩やかに回復している。
そのような経済情勢の中、雇用情勢については、完全失業率は 2017 年度平均で 2.7%と 1993 年度以来 24 年ぶりの低水準となり、有効求人倍率は 2017 年度平均で 1.54 倍 と 1973 年度以来 44 年ぶりの高水準となるなど、着実に改善が続いている。
さらに、雇用者数は5年連続で増加しており、雇用形態別にみると、不本意非正規雇用労働 者数が減少を続ける中、正規雇用労働者数が前年の増加幅を上回り3年連続で増加している。
また、賃金については、2017 年度の名目賃金は 2014 年度以降4年連続で増加し、2018 年春季労使交渉では、前年を上回る賃金の引上げ額を実現した。
ただし、このように雇用・所得環境が改善する中、企業における人手不足感は趨勢的に高まっており、その影響については引き続き注視が必要である。
「平成 30 年版労働経済の分析」では、第Ⅰ部「労働経済の推移と特徴」において、こうし た 2017 年度の労働経済をめぐる動向を分析するとともに、第Ⅱ部では「働き方の多様化 に応じた人材育成の在り方について」と題して、少子高齢化による労働供給制約を抱える我 が国が、持続的な経済成長を実現していくためには、多様な人材が個々の事情に応じた柔軟 な働き方を選択できるように 「 働き方改革 」 を推進するとともに、一人ひとりの労働生産性を高めていくことが必要不可欠であり、そのためには、資本への投資に加えて、人への投資を促進していくことが重要であるとの認識のもと、人材育成の在り方について様々な視点 から多面的に分析を行った。
こうした視点には、今後、人生 100 年時代が見据えられる中、誰もが生涯を通じて主体的 にキャリア形成ができる環境整備に向けた問題意識も含まれる。
第Ⅱ部第1章「労働生産性や能力開発をめぐる状況と働き方の多様化の進展」では、第2章 以降に行う検討の視座として、我が国の労働生産性、企業における能力開発、働き方の多様化の進展などをめぐる状況について、今後の展望も含めて現状を概括的に整理しており、今後、企業における内部人材の多様化がより一層進展することが見込まれる中、多様な人材がその能力を十分に発揮させながら、いきいきと働くことのできる環境整備につながる人材マ ネジメントの在り方を検討する重要性について指摘した。
第Ⅱ部第2章「働き方や企業を取り巻く環境変化に応じた人材育成の課題について」では、企業の取組に着目して考察しており、OJT(On-the-Job Training)などの能力開発や、 目標管理制度などの能力開発に関連する人材マネジメントについて、多様な人材の能力が十分に発揮されている企業において積極的に実施されている取組内容や、職場の労働生産性の 向上につながることが期待される取組内容を分析するとともに、職場の体制をめぐる課題についても考察した。
さらに、グローバルな経済活動やイノベーション活動の重要性が高まる中、その担い手の育成をめぐる課題や向上が求められるスキルを分析した。
第Ⅱ部第3章「働き方の多様化に応じた「きめ細かな雇用管理」の推進に向けて」では、働 き方の多様化に応じた人材育成を推進するための重要な 「 鍵 」 となる企業の雇用管理に着目し、いわゆる正社員、限定正社員、非正社員に峻別しながら、多様な人材の十分な能力 の発揮につながる取組などを考察している。
また、高度専門人材(高度外国人を含む。)にとっても魅力的な就労環境の整備に向けた課 題や、「きめ細かな雇用管理」を実施するためのキーパーソンとなる管理職の育成をめぐる 課題についても分析した。
最後に、第Ⅱ部第4章「誰もが主体的にキャリア形成できる社会の実現に向けて」では、人生 100 年時代が見据えられ、複線的なキャリア形成の重要性が高まる中、転職者の職業生活全体の満足度の向上につながる転職の在り方や、主体的なキャリア形成の「鍵」となる自 己啓発を促進するための課題に加えて、生涯を通じて必要な時に必要なスキルを身につける ための学び直しをめぐる課題について分析した。