未見の判例の解き方
2020年の問6の問題に定額残業代に関する判例からの問題が出題されました。
日本ケミカル事件(平成30年7月19日)で、ほとんどの受験生が未見(まだ見ていない)の問題です。
(D)「いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは、定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」とするのが、最高裁判所の判例である。 |
未見の問題をいくら眺めていても結論はでません。
カラオケに行って知らない曲を歌うのと同じように、知らない曲を歌うのは無理です。
これと同じで、知らない問題(特に判例)に不要な時間を充てる必要はありません。
「この問題での正誤の判断は付かない。」と割り切ることが必要。
今回の(D)の問題が誤りになり、正解の肢になります。
問題文は、原審(東京高等裁判所の判断)の内容です。
原審を最高裁判所が覆した(否定)したために、(D)の問題は誤りになるのですが、仮に最高裁判所に上告していなければ、(D)の内容が判例になっていた事件です。
日本ケミカル事件は、今まで労働者よりの判決(割増賃金の固定払いの解釈に関して、会社に対して厳しい要件を求めた)が、会社よりの判決(会社が運用していた割増賃金の固定払いを認めたもの)が出た重要な判例です。
今回のような大半の受験生が知らない判例(日本ケミカル事件)に対しては、
下記の3つが問題の解き方としてもポイントです。
①最後に問題を解く。
②未見の判例での正誤の判断は避ける。(正誤の確証が取れないため)
③時間をかけない。
それでは、内容を確認します。
〔問 6〕 労働基準法に定める労働時間等に関する次の記述のうち、誤っているもの
はどれか。
(A)労働基準法第32条第2項にいう「1日」とは、午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいい、継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とする。
(B)労働基準法第32条の3に定めるいわゆるフレックスタイム制について、清算期間が1か月を超える場合において、清算期間を1か月ごとに区分した各期間を平均して1週間当たり50時間を超えて労働させた場合は時間外労働に該当するため、労働基準法第36条第1項の協定の締結及び届出が必要となり、清算期間の途中であっても、当該各期間に対応した賃金支払日に割増賃金を支払わなければならない。
(C)労働基準法第38条の2に定めるいわゆる事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定で定める時間が法定労働時間以下である場合には、当該労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出る必要はない。
(D)「いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは、定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」とするのが、最高裁判所の判例である。
(E)労働基準法第39条に定める年次有給休暇は、1労働日(暦日)単位で付与するのが原則であるが、半日単位による付与については、年次有給休暇の取得促進の観点から、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用されている場合には認められる。 |
(D)以外の問題は、基本的な内容です。
(B)に関しては、改正の箇所ですが、内容的には、当然学習している範疇です。
(D)以外は、全て正しい肢になるので、(D)が誤りの肢になります。
繰り返しになりますが、未見の判例をいくら時間を割いて考えても正誤の判断は、無理です。
それでは、(D)を開設していきます。【2020年版早回し過去問論点集】より
□ 「いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは、定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」とするのが、最高裁判所の判例である。
[誤り R1年-6D] 判例…日本ケミカル事件(平成30年7月19日)
⇒「上記の原審(高等裁判所の判断)を覆した判決のため誤り。」
【POINT】 みなし残業代について争点となった判決です。
「いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは~労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」 最高裁判所の1つ前の高等裁判所の判決内容(原審)になります。
最高裁判所では、高等裁判所の判断を覆し(無効と判断)、「定額残業の判断(下記①~③だけに限定しない。)に限定しない。」としています。
■事件の概要
■判決…会社側勝訴
■従来の判例であれば、高裁の判断(問題文そのもの)が一般的な判断。 今回の日本ケミカル事件で、従来の労働者側の主張にブレーキがかかった判決に。
■R1年-6Dは、難問です。 一般的な大多数の受験生は、この問題の判断は困難です。 問題を解く優先順位としては、問6のD以外の肢の正誤を確認してから、最後に確認する問題です。比較的D以外の肢は、容易な内容です。 |