令和2年 厚生労働白書
第9節 社会保障制度をめぐる動向(p116)
社会保障制度の機能強化という観点から見ると、まず、介護保険制度の創設が挙げられよう。
高齢者介護は、従来、家族介護が基本とされ、それを補完する形で措置方式により介護サービスが提供されてきた。
平成に入り、要介護高齢者の増加・介護期間の長期化、核家族化の進展といった状況の中で、介護を社会全体で支えるという理念の下、契約方式による介護保険制度が導入された。利用者が多様な事業主体からサービスを選択できるようになり、介護サービスの充実に大きく寄与することとなった。
近年は、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられることを目的として、医療・介護・予防・住まいなどを包括的に支援するための取組(地域包括ケア)が進められている。
障害者福祉においても、完全参加と平等を掲げた国際障害者年(1981(昭和56)年)を契機としてノーマライゼーションの理念が広がる中で、契約方式化により利用者のサービス選択が可能になり、その後、障害種別を超えたサービスの提供枠組みが構築されたことなどにより、障害福祉サービスの充実が図られている。
低所得者へのセーフティネットの面でも、様々な改革が行われた。2008(平成20)年のリーマンショックを契機として、就労、生活、住まいといった複合的なニーズを抱える生活困窮者への支援がクローズアップされ、雇用保険と生活保護の間のセーフティネットとして生活困窮者自立支援制度の創設につながった。
その後、地域共生社会の実現に向けて、包括的な支援体制づくりが進められている。
さらに、高齢期の所得保障の充実という観点から、短時間労働者への厚生年金の適用範囲が拡大されるとともに、低年金者を対象として年金生活者支援給付金制度が創設された。
関連する労働政策について見ると、高齢者雇用や女性活躍の促進について、法整備を含め進められてきた。また、働き過ぎを防ぐために、労働時間について週40時間労働制原則化や長時間労働規制などの取組みが進められている。
加えて、近年では同一労働同一賃金などの多様な働き方への対応も進められている。
また、医療提供体制について、高齢化などによる医療需要の変化に対応するため、医療機関の機能分化・連携などの取組みが推進されてきた。
近年では、地域における人口構造の変化への対応を含め、地域ごとに効率的で不足のない医療提供体制を構築すべく、地域医療構想や医師の偏在対策などの取組みが進められている。
少子化対策は、平成の時代にクローズアップされてきたテーマである。
1990(平成2)年の「1.57ショック」を契機に、出生率低下と子ども数の減少が社会的な問題として認識されることとなり、その後、徐々に妊娠・出産・子育ての支援が強化されていった。
子育て支援については、累次の待機児童対策等とともに、保育制度等の見直しが行われ、子ども・子育て支援新制度の創設、幼児教育・保育の無償化につながった。
また、育児休業法の制定や育児休業給付制度の創設など仕事と子育ての両立支援に関する施策も進められてきた。少子化対策は、こうした施策のほか、結婚、教育、まちづくりまで広範な領域での取組みを必要とする課題であり、政府を挙げて推進されている。
ノーマライゼーション:
仕事を持つ者と持たない者とが平等に生活する社会を実現する考え方