労働基準法 総則

【労働条件の原則 (法1条) 労働条件の決定(法2条)】

① 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要をみたすべきものでなければならない。     

 (法1条)

② 労働基準法の目的は、憲法25条1項を具体的にしたもの。

③ 労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定すべきもの(法2条)

④ 労働者及び使用者は、労働協約就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。(法2条1項)

⑤ 法1条、2条違反に関しての罰金、罰則はない。

【均等待遇 (法3条)】

① 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。

② 採用に関して上記理由での差別は法3条違反ではない。

【男女同一賃金の原則 (法4条)】

① 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取り扱いをしてはならない。

② 労働基準法では、賃金についてのみ男女差別を禁止

③ 賃金に関して、女性を男性より有利に扱う場合も禁止

④ 賃金以外に関しては、男女雇用機会均等法で性別による差別を禁止

【強制労働の禁止 (法5条)

① 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

② 強制労働の禁止は、労働基準法上最も罰則が重い。

③ 1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金

【中間搾取の排除 (法6条)】

① 何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

② 法律に基づいて許される場合とは、職業安定法による有料職業紹介事業

【公民権行使の保障 (法7条)】

① 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他の公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行くするために必要な時間を請求した場合には、拒んではならない。

② 必要な時間に関しては、有給にするか無給にするかは任意

【労働者の定義 (法9条)】

① この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

② 在籍出向の場合、出向元と出向先と出向労働者三者間の取り決めによる責任と権限に応じて、出向元と出向先の使用者が責任を負う。

③ 法人のいわゆる重役で業務執行権又は代表権を持たない者が工場長、部長の職で賃金を受ける場合は、その限りでは労働者。

【使用者の定義(法10条)】

① この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者でその他のその事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

賃金 

【賃金 (法11条)】

① 賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

② 退職手当、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は、原則賃金ではない。

③ ただし、恩恵的給付であっても、労働協約、就業規則、労働契約等にあらかじめ支給条件の明確なものは賃金

④ 休業手当(法26条)は賃金

⑤ 休業補償(法76条)は、賃金ではない。

⑥ 解雇予告手当(法20条)は、賃金ではない。

【賃金支払いの5原則 (法24条)】

① 賃金支払いの5原則

  1.  通貨払いの原則
  2.  直接払いの原則
  3.  全額払いの原則
  4.  毎月1回以上払いの原則
  5.  一定期日払いの原則

② 通貨払いの原則の例外

  1. 法令に別段の定めがある場合(現時点で規定なし)
  2. 労働協約に別段の定めがある場合
  • 労働協約による 通勤定期券は現物給与。
  • 「労働協約」を「労使協定」に置き換えての出題に注意
  • 口座振込の場合は、労働者個人の同意が必要

③ 直接払いの例外

  • 代理人(例えば労働者の委任を受けた弁護士)はダメ
  • 使者ならOK

④ 全額払いの例外

  • 社会保険料等法令で別段の定めがある場合は控除可能
  • 社宅費、労働組合の組合費は「労使協定」が必要(届出不要)

【平均賃金】 (法12条)

①「平均賃金」とは、算定事由発生日以前3カ月間の賃金の総額をその期間の総日数で除したもの

②算定事由とは

・解雇予告手当

・休業手当

・年次有給休暇の賃金

・災害補償

・減給の制裁

③解雇予告手当の場合の算定事由発生日⇒労働者に解雇の通告をした日

④賃金の総額と総日数から控除するもの

  1. 業務上の負傷又は疾病による療養のため休業する期間
  2. 産前産後の休業期間
  3. 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
  4. 育児休業・介護休業の期間
  5. 試みの試用期間

④賃金の総額に算入しないもの

 1.臨時に支払われた賃金

 2.3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金

 3.通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの

【非常時払い】 (法25条、則9条)

① 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。

② 「厚生労働省令で定める非常の場合」

  1. 労働者の収入によって生計を維持する者の出産、疾病、災害
  2. 労働者又は労働者の収入によって生計を維持する者の結婚、死亡、やむを得ない事由による1週間以上にわたる帰郷 

【その他賃金に関するPOINT】

㌽①年俸制の場合⇒毎月1回以上、一定期日払いの原則が適用

㌽②賃金の全額払いに違反しない場合

  1. 1カ月の賃金支払額の50円未満の端数切り捨て、50円以上100円に切り上げること。
  2. 1カ月の賃金支払額の1,000円未満の端数を翌月に繰り越して支払うこと

労働契約

【部分無効自動引き上げ】 (法13条)

①この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合、無効となった部分は、この法律で定める基準による。

【労働契約の期間】 (法14条)

①労働契約⇒

  1. 期間の定めのないもの
  2. 一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの…ダム工事等
  3. 期間の定めのあるもの

②期間の定めのある労働契約

(原則)3年

(例外)5年

・高度の専門的知識等を有する労働者+高度の専門的知識等を必要とする業務に就く場合

・60歳以上の労働者

 

【有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準】

㌽①(契約締結時の明示事項等)

●使用者は、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の締結に際し、労働者に対して、契約期間の満了後における契約の更新の有無を明示しなければならない
●前項の場合、使用者が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは、使用者は、労働者に対して当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならない
●使用者は、有期労働契約の締結後に上記内容を変更する場合には、当該契約を締結した労働者に対して、速やかにその内容を明示しなければならない。

 

㌽②(雇止めの予告)

 ●使用者は、有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されていないものを除く。次条第二項において同じ。)を更新しない場合には、少なくとも契約期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない

 

㌽③(雇止めの理由の明示)

●前条の場合において、使用者は、労働者が更新しない理由について証明書を請求したときは、遅滞なく

 これを交付しなければならない。
●有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。

 

㌽④(契約期間についての配慮)

●使用者は、有期労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。 (努力)

【労働条件の明示】 (法15条、則5条)

① 労働契約の締結に際し明示しなければならない事項には、必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項)と、定めをする場合には明示しなければならない事項(相対的明示事項)の2つ。

②(絶対的明示事項)

 1.労働契約の期間に関する事項
 2.就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

 3.始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
 4.賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金、賞与その他これらに準ずる賃金を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期、昇給に関する事項
 5.退職に関する事項(解雇の事由を含む)

③ 昇給以外については、書面により明示が必要。(昇給に関しては口頭でも可)

④(相対的明示事項)
 1. 退職手当の定めをする場合は、労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払いの方法及び支払の時期に関する事項 
 2. 臨時の賃金等及び最低賃金額の定めをする場合は、これらに関する事項 
 3. 労働者に食事、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は、これに関する事項 
 4. 安全及び衛生に関する定めをする場合は、これに関する事項 
 5. 職業訓練に関する定めをする場合は、これに関する事項 
 6. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合は、これに関する事項  

    7. 表彰及び制裁の定めをする場合は、種類及び程度に関する事項 
    8. 休職に関する事項

 

④ 就業規則との相違…下記に関しては就業規則の記載事項ではない。 

  • 労働契約の期間に関する事項(上記1)
  • 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 (上記2)
  • 所定労働時間を超える労働の有無(上記3の1部)

 

⑤ 必要な旅費に関して

  • 明示された労働条件が事実と相違する場合⇒労働者は即時に労働契約を解除できる。
  • この場合、就業のため住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷するする場合
  • 必要な旅費を負担しなければならない。

(関連)労働基準法 第64条(帰郷旅費)
 ⑥ 満18歳に満たない者解雇の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。ただし、満18歳に満たない者がその責めに帰すべき事由に基づいて解雇され、使用者がその事由について行政官庁の認定を受けたときは、この限りでない。

【賠償予定の禁止】 (法16条)

① 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

② 親権者や身元保証人との損害賠償額を予定する契約も禁止

【前借金相殺の禁止】 (法17条)

① 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

【貯蓄金の管理】 (法18条)

① 使用者が労働者から委託を受けて貯蓄金を管理する場合

  • 労使協定の締結・届け出
  • 貯蓄金管理規程の作成・周知が必要

 

第4章 解雇

【解雇権濫用法理】

① 労働契約法16条 (解雇)
 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

② 労働基準法第18条の2が移設されたもの。

③ 解雇するには、客観的に合理的な理由あり社会通念上相当として是認できる場合でなければ、その解雇は無効。

【解雇制限】 (法19条)

① 次の期間は解雇できない。
 1.業務上の傷病により休業する期間とその後30日間
 2.産前産後休業をしている期間とその後30日間

② ①の1はあくまで「業務中」のみで「通勤」は含まれない。

(通勤中の傷病により、療養のため休業している期間は解雇可能)

③ 出産が予定より遅れた場合⇒遅れた日数は産前にプラス

④ 産前休業(労働基準法65条1項)⇒使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。

(起算日⇒出産予定日)

 ⑤ 産後休業(労働基準法65条2項)⇒産後8週間を経過しない女性を、就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

産後6週間は、絶対的就業禁止期間

(起算日⇒現実の出産日)

 

【解雇制限の解除】 (法19条)

① 解雇制限期間中でも労働者を解雇できる場合

  1. 使用者が打切補償を支払う場合(行政官庁の認定不要)
  2. 天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となり、行政官庁の認定を受けた場合

② 打切補償とは⇒
労働基準法による災害補償で、業務上の傷病が療養開始後3年を経過しても治らない場合、使用者が平均賃金の1200日分の金額を一時金として支払うことによって将来の補償を打ち切るもの。

(療養開始後3年+1200日分 つまり6年分)

【解雇予告】 (法20条)

① 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。 

② 30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなくてはならない。

③ 解雇予告と予告手当を合わせて30日とすることも可能

⇒(例 8月31日に解雇。8月13日に解雇予告し、平均賃金の12日分を支払う)

(解雇予告は翌日起算。14日から31日までの18日分+平均賃金12日分=30日)

④ (判例)予告期間も置かず、予告手当の支払いもしないで労働者に解雇の通知をした場合

⇒解雇の通知後30日を経過するか、通知後に解雇予告の支払いをしたときに解雇の効力が生じる。

【解雇予告が不要な場合】 (法20条)

① 解雇予告が不要な場合⇒行政官庁の認定が必要

  1. 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
  2. 労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合

【解雇予告の適用除外】 (法21条)

①  下記の者は「解雇予告の規定」は適用除外(解雇予告不要)

  1. 日日雇い入れられる者1箇月を超えて引き続き使用されるに至った場合
  2. 2箇月以内の期間を定めて使用される者所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合
  3. 季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合
  4. 試の使用期間中の者14日を超えて引き続き使用されるに至った場合

解雇予告の規定が適用。

【退職時等の証明】 (法22条)

① 退職時の証明内容⇒労働者が請求した場合、使用者は遅滞なく交付義務あり

  1. 使用期間
  2. 業務の種類
  3. その事業における地位、賃金
  4. 退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。

② 解雇予告がされた日から退職の日までの間において、その解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

解雇予告期間がある人だけに適用される

③ ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、証明書の交付は不要。

④ 解雇理由の証明書⇒労働者の請求しない事項を記入してはならない。

⑤ 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、

労働者の国籍

信条

社会的身分若しくは

労働組合運動に関する通信をし、又は退職時等の証明、解雇理由の証明書に秘密の記号を記入してはならない。

【金品の返還】 (法23条)

① 労働者の死亡又は退職の場合に権利者の請求があった場合は7日以内

  • 賃金の支払い
  • 労働者の権利に関する金品を返還

② 退職手当に関しては、就業規則等に支払い時期が定められている場合は、7日以内でなく、その支払い時期でもよい。

③ 権利者には、一般債権者は含まれない。